大阪地方裁判所 昭和38年(行)42号 判決 1967年6月24日
大阪市城東区今津町五四五番地
原告
宮崎高子こと 宮崎タカ子
大阪市城東区蒲生町三丁目六七番地
被告
城東税務署長
村上健一
大阪市東区大手前之町
被告
大阪国税局長
近藤道生
右両名指定代理人検事
樋口哲夫
右同
法務事務官 奥田五男
右同
大蔵事務官 山西偉也
右同
大蔵事務官 戸上昌則
右当事者間の昭和三八年(行)第四二号審査請求棄却処分取消同三九年(行ウ)第一二号所得税更生取消各請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
被告城東税務署長が、原告に対し、昭和三七年八月一六日付でなした更正決定のうち、所得金額金一、七〇〇、二九四円を超える部分は取消す。
原告その余の請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は「被告城東税務署長が、昭和三七年八月一六日付で原告の昭和三六年度分の所得税につき、その所得金額を金一、七〇五、五八一円所得税額三二一、一五〇円としてなした更正決定、ならびに被告大阪国税局長が、昭和三八年七月二四日付でなした右更正決定に対する審査請求を棄却する旨の裁決はいずれも取消す。訴訟費用はすべて被告等の負担とする。」との判決を、被告両名指定代理人は「原告の請求はいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決をそれぞれ求めた。
原告の請求原因
(一) 原告は大阪市城東区放出町七一一番地で建築金物製造業を営んでいたものである。
(二) 原告は、昭和三七年三月一五日被告署長に対し、原告の昭和三六年度分の所得税につき、その所得金額を金六〇〇、〇〇〇円として確定申告をしたところ、被告署長は、同年八月一六日付をもつて右所得金額を金一、七〇五、五八一円、所得税額を金三二一、一五〇円とする更正決定をなし、その頃、その旨を原告に通知してきた。
(三) そこで、原告は被告署長に対し、同年九月一一日再調査請求をしたが、被告署長は同年一二月一〇日これを棄却する旨決定したので、翌三八年一月七日被告局長に対し審査請求をしたところ、被告局長は同年七月二四日付をもつてこれを棄却する旨の裁決をなし、その頃、その旨原告に通知してきた。
(四) しかし、原告の昭和三六年度分の所得金額は、原告の後記主張のとおりであるから、右更正決定には所得金額を過大に認定した違法がある。
(五) また、被告局長のなした右裁決には次の違法がある。即ち、国税通則法第八三条第一項によつて国税協議団は審査庁たる被告局長から独立した別個の機関として設置されるべきであり、国税局長の公正、妥当な審査および裁決を監視する機関である。しかるに協議団を被告局長の手足としての職員と同一に扱つており協議団ないし協議官の独立的性格を否定するものである。原告の審査請求に対しても、わずかに二回程度あつたのみでただ売上額が違つているといつただけで何等具体的根拠を示さなかつた。結局実質的審査を何等行なわないまま裁決がなされたものであるから、審理不尽として取消さるべきである。
被告等の答弁ならびに主張
(一) 被告等の答弁、原告の請求原因事実中(一)(二)(三)は認める(四)(五)は争う。
(二) 被告署長の主張
原告の昭和三六年度所得金算定の根拠は、
(1) 売上高一九、〇〇七、一二九円(内訳は別紙第一表記載のとおり)
(2) 材料費 九、八二二、六八九円(内訳は別紙第二表記載のとおり)
(3) その他の経費 六、七四三、七七〇円(内訳は別紙第三、四表記載のとおり)
(4) 所得金額 二、四四〇、六七〇円((1)から(2)(3)を減算したもの)
であるから、右所得金額の範囲内でなした被告署長の前記更正決定は適法である。
(三) 被告局長の主張
国税局協議団は国税局に置かれるもので(大蔵省設置法第四五条)、組織法上の性格はいわゆる附属機関(行政組織法第八条)に属し、協議官は附属機関の職員として所轄国税局長の一般的指揮監督に服するものであり、もともと審査庁たる国税局と別個独立の機関たることを法律上の要件とされているものではないから、右のような性格を有する協議団が国税通則法第八三条所定の議決をし、これに基づいて裁決がなされたからといつて、これを理由に実質的審査が行なわれなかつたとすることはできない。
本件の審査請求事案を担当した協議官は、昭和三八年三月二八日、同年四月五日および同月九日の三回に亘つて原告方に赴き原告と面接したが原始記録の提示もなかつたので協議官は取引先の調査その他の関係資料から原処分(更正処分)を正当として判定したもので何ら、審査不尽といわれるすじ合はない。
なお、原告は本件の裁決に関しての違法の点を何ら具体的に主張していない。
原告の右被告らの主張に対する認否および主張
別紙第一ないし第四表中原告の認否、主張欄記載のとおりであるつまり被告署長が外注費に計上している協和金属工業に対する分金一、三三〇、八四五円(第四表中の(7))は仕入であるから被告署長主張の材料費(第二表)に計上さるべきである。なお本件事業年度(昭和三六年度)期首における棚卸商品として六五、六五五円相当のものがあつたからこれもまた同年度の材料費に計上(第二表の原告主張欄)さるべきものである。すると材料費は被告署長の主張分九、八二二、六八九円に右の各金額を加算すると材料費は一一、二一九、一八九円となる。さらに、同年度において原告には所謂トンネル仕事(客の注文に応じきれない場合に他処から製品を仕入れ、その仕入価格そのままで売渡し、利益の上がらないもの)分一、五二〇、五七〇円があつたからこれも売上から差引かるべきである。被告署長は外注費(第四表)において原告の内職工賃(第二次外注費)計六七四、七二一円を計上していないが、これも外注費に加算(第四表原告の主張欄)さるべきである。すると外注費は前記協和金属工業の分一、三三〇、八四五円を控除した額に内職工賃六七四、七二一円を加算すると外注費は四、〇二二、〇三七円(第四表原告の主張欄)となる。従つて材料費以外の総経費は六、〇八七、六四六円(第三表原告の主張欄)となる。
被告署長の原告の右主張に対する認否
内職工賃(第二次外注費)の点を認めて、その他は全部争う。(第二、第四表の被告署長の認否欄)
証拠として、原告は、甲第一号証を提出し、乙号各証の成立をいずれも認めると述べ、被告等は乙第一、二号証の各一、二を提出し、証人影山岩夫の証言を援用し、甲第一号証の成立は不知と述べた。
当裁判所は職権で原告本人を尋問した。
理由
(一) 請求原因(一)(二)(三)の各事実については当事者間に争がない。
(二) 更正決定の取消の点について。
(1) 被告主張の売上額(別紙第一表)、材料費(第二表)材料費以外の総経費(第三表)のうち外注費(第三表16)を除くその余の全部、外注費(第四表)のうち協和金属工業の分(第四表7)を除くその余の全部、および原告主張の内職工賃(第四表原告主張欄)はすべて当事者間に争のないところである。
(2) 原告は、協和金属工業所分金一、三三〇、八四五円は所論外注費ではなく、仕入であつて材料費に計上すべきであると主張するのであるが、外注費、材料費のいずれに計上しても売上額から控除すべきことに変りがなく、原告の当該年度の所得金額に変動をきたすものではない。
(3) トンネル仕事金一、五二〇、五七〇円について。
原告は本件事業年度において所謂トンネル仕事分が一、五二〇、五七〇円あつたと主張するのであるが、これを認めるに足る証拠はない。もちろん原告本人尋問の結果中には右主張に副うような供述がある。しかし原告の供述の他の部分(トンネル仕事分の仕入先、売上先があいまいで一例すら挙示できないこと、原始記録の保存されていないこと、取引が帳簿に記帳されたか不明であること、帳簿が存在しないこと)と証人影山岩夫の証言(再調査の段階においては原告は所謂トンネル仕事に何等言及しなかつたこと)とに照らして原告の主張に副うような原告本人の供述はたやすく措信できない。
(4) 棚卸商品金六五、六五五円について。
原告は、昭和三六年度期首において原価金六五、六五五円の棚卸商品が存在していた旨主張するところ、証人影山岩夫の証言ならびに原告本人尋問の結果によると相当額の棚卸商品が存在していたことが窺えるのである。そして、期末における棚卸商品が存在したことについては、双方いずれからの主張も立証もないのであるから本件においては期首棚卸商品の右金額をそのまま本件事業年度の売上額から材料費として差引かざるを得ないこととなる。
(5) 以上のとおりとすれば、いま協和金属工業の分一、三三〇、八四五円が外注費か仕入の材料費かの認定は別として、一応原告の主張する材料費だとし、これに期首棚卸商品分六五、六五五円を材料費に算入すると材料費は、合計一一、二一九、一八九円(第二表原告主張欄の合計額)となる。また、外注費から右の協和金属工業の分一、三三〇、八四五円を控除し、右の内職工賃六七四、七二一円を加算すると外注費合計は四、〇二二、〇三七円(第四表の原告主張欄)となる。従つて材料費以外の総経費合計は六、〇八七、六四六円(第三表原告の主張欄)となる。だから売上額一九、〇〇七、一二九円(第一表)から、材料費一一、二一九、一八九円と材料費以外の総経費六、〇八七、六四六円との合計額を差引いた金一、七〇〇、二九四円が原告の本件事業年度の所得金であるというべきである。この金額を超えてなした本件更正決定はその限りで違法たるを免れないから、右金額を超える部分はこれを取消し、その余の原告請求は失当であるからこれを棄却することとする。
(三) 裁決取消の点について。
成立に争のない乙第一、二号証の各一、二および証人影山岩夫の証言、原告本人尋問の結果弁論の全趣旨を総合すると、原告は本件更正決定を不当として昭和三七年九月一一日、再調査の請求をなしたところ、当時(昭和三七年)城東税務署に勤務していた影山岩夫が昭和三七年一二月頃原告方に赴き、原告に面接し、現場を見、原告から一部の原始記録などの提示を受けて仕入、売上、外注費などの調査をなしたこと、これらの調査の結果は審査の段階において協議官の判定の資料とされ、また協議官においても二回程度原告に面接調査に赴いたことが窺えるのであつて、原告は自己の言分が受け入れられなかつたからとか、また協議団の性格に対する独自の見解からして、協議官が実質的審査を行わないままに裁決したと独断するのであつて、それは当を得ないものである。その他審査裁決についての具体的な違法の点について何等の主張がないから、原告の本件の審査裁決の取消請求の点は理由なく失当として棄却することとする。
(四) よつて、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 長谷喜仁 裁判官 光辻敦馬)
売上額明細表(第一表)
<省略>
材料費明細表(第二表)
<省略>
材料費以外の総経費(第三表)
<省略>
外注費(第四表)
<省略>